ペンの交わる交点

I think of you and I'm living out my fantasy.

緑の目をした彼へ

しがないヲタクの感想文です、主観ですので解釈の違いはご了承くださいませ。シェイクスピアなんて今まで読んだことないし考察なんて大したものではなくて妄想の部分の方が多い気がするけれど。



2018年9月2日〜26日
新橋演舞場にて、公演された「オセロー」


この作品を紐解く上でキーポイントになることって感情的な部分(特に「愛」とか「嫉妬」とか)が大きいと思うんだけど、当然出てくる登場人物それぞれにその感情の矛先が違うんです。そんな中でより多くの人へ向けて自分の気持ちをさらけ出してたのがイアーゴーなんじゃないのかな、って。




『正直者のイアーゴー』と言われてきた彼が、本音であろうと建前であろうと、このオセローという作品に出てきた人たちへ向けた感情から考えてみた、わたしなりの答えを記しておこうと思います。





演出あれこれについて。


ひとつめ。地球儀。


1幕の議会場の右端に地球儀が置いてあるんだけど、1幕最後のシーンでイアーゴーがその地球儀をふわふわと飛ばしながら歩くんです。


(ちなみに稽古の時点ではアグレッシブなコンテポラリーダンスをする予定だったみたい、それも見てみたかったなあ。)


イアーゴー
『よし、これだ!思いついたぞ、極悪至極、このおぞましき誕生を世の光に曝すのは、闇の地獄。』


そう叫んだイアーゴーは地球儀を手に取り、ふわふわと浮かせながら舞台上を左へ右へと練り歩き回ります。


彼の手によって創り出される流れに乗り、舞い踊る地球儀はとても美しい。

【掌で踊らされる】
相手の思った通りに行動させられること


に掛けてこれからこの世界(地球儀)がイアーゴーの思い描くままに進んでく予兆みたいなものを表しているのかなあ、とぼんやり考えていたらなんとあのチャップリンの独裁者という作品のオマージュだったようです。


この先に起こるあらゆる出来事は全てイアーゴーの策略の中で手玉に取られているのだ、とこのシーンで気付かされた。


それを知ってから観劇した千穐楽の地球儀シーンではテーブルに寝そべった時に歯を見せて笑うイアーゴーの姿がとても印象的でした。これからのことを考えたら楽しくてしょうがない、とでも言いたげな少年のような顔をして笑うんだもの。笑顔が恐ろしかった。


悪事を思い付き企んだり、周囲の人が罠と落ちていく姿を嘲笑う顔、オセローへ向ける従順な臣下の姿、震えそうな声で心配そうにデズデモーナへと寄り添う姿、予想外の出来事に驚きを隠せない素の様子。どれが本当のイアーゴーなのか分からなくなるぐらい、まるで別人かのようなたくさんの表情を魅せてくれたけれど、地球儀に触れた瞬間の、真新しいものを見つけた子どものように無邪気にふわっと微笑むあの優しい笑顔に、ドキッと心が揺れました。一瞬だったけれど忘れられない。彼にもこんな優しい表情を魅せる一面があるのかと。(実際はさっきまでめちゃくちゃ悪いお顔で叫んでたんだけどね)ああ、好きだなあ、って純粋に想うことの出来たシーン。


Twitterのレポによると、手で跳ねさせるだけでなく足蹴にしてる日もあったようで。それはそれで観てみたかった。イアーゴーは何を考えながら地球儀を操っていたのかなあ。)





ふたつめ。大階段。


2幕から登場する大階段。階段一つとってもこんなにも感情や状況を表すことができるんだって感動しました。


1幕で思いついた罠をいよいよ2幕からオセローに仕掛けていくんだけど、基本的にはイアーゴーは階段下、オセローは階段上から話しかけて会話をしています。オセローの堂々とした姿や跪くイアーゴーの姿から、将軍とそれに仕える臣下であることを視覚的に観客へ感じさせる立ち位置。


けれど、話が進んでいくにつれてその立ち位置が変化していきます。だんだんとオセローがイアーゴーの罠に巻き込まれて、様々な疑惑が浮かび上がってくる。するとそれまで上下の関係下で話していた2人の立ち位置が階段中央に並ぶんです。


2幕のラストシーンでは


オセロー
『これからはおまえが俺の副官だ。』


イアーゴー
『永遠にお仕え致します。』


とイアーゴーの念願叶って副官に任命されます。割愛してしまったけど、もともと副官だったキャシオーはイアーゴーに嵌められて失態を犯してしまったのでオセローからクビ宣告されてる。そこでイアーゴーに副官の地位が回ってきたんです。彼の狙いはこれ。オセローに向ける顔は臣下の顔をしているのに、その直後にオセローに背を向け観客だけに魅せる顔は全く別物なの。


ここのシーンのかみやまくんが本当に本当に素晴らしくて。もともと原作を読んだ時点で気になるセリフだったのでどんな風に演じるのかなあ、と楽しみにしていたのだけど想像の何倍も素晴らしかった。おまけに3幕のスタートはこのシーンのリプレイから始まるので1度の観劇で2回観ることができます。拍手。


そして最後、いよいよ疑心暗鬼に陥ってもう疑うことしか出来なくなってしまったオセローは、今までならばイアーゴーがいた床で失神してしまいます。その時イアーゴーはどこにいるかって言うと、オセローがいた階段の最上段からこう叫ぶ。


イアーゴー
『沁み込め、俺の毒薬、全身にまわれ!』


オセローが階段下、イアーゴーが階段上という立場が逆転したことを思わせる構図と、このセリフ。かみやまくんの目って三白眼みがあるなあ、とは思っていたのだけど今回のイアーゴーでそれを特に感じました。かみやまくんの目の演技はもうそれは本当にすごいと思うんだけど(みんな今すぐNetflixで「宇宙を駆けるよだか」のしろちゃんを観ようね、しろちゃんの数百倍やばいのがイアーゴーさまだよ!!!)その中でも目が光る瞬間があるの。


コンサートでのかみやまくんも目が光るよね、でもあれは黒目がギラッッッ、と光るんです。(あくまで主観ね、主観。)一瞬で捕らえられる感じ。言うならばそう、GreenTigerに獲物として目をつけられたかのようなね?だけど、イアーゴーは白目がグワッッッ!!!と開かれてそこに吸い込まれる感じ。まるで自分もイアーゴーの毒牙に蝕まれて全身に毒薬がまわるかのように痺れて目が離せなくなるの。じわりじわりと彼の毒がまわっていく。ほら、気付かないうちにあなたも悪魔との契約を交わしてる。


イアーゴー
『ああ、嫉妬にお気をつけください、閣下。それは緑の目をした怪物で、己が食らう餌食を嘲るのです。』


嫉妬心を表す色として昔は緑を使っていたようで、2幕のイアーゴーの巧みな話術によってオセローが疑いを深めていく時、まさに照明の色は緑。

イアーゴー
『嫉妬にお気をつけください』

とオセローへ忠告するけれど実際のところ嫉妬に蝕まれていっていたのはイアーゴー自身。緑の目をした怪物になっていく様子と、そんな愚かな自分の姿を目の当たりにしてしまった鏡の間の表情が重くて辛い。


他にも照明のことを言うと、大階段の後ろに月が出てるんだけど、その月が赤くなる時があって。1回目に観劇した時に、これも何か意味があるんだろうなあ、と思いつつもなんのシーンだったかは覚えていなくて。後日見たときにアカツキになったあとのセリフを覚えておいて新訳オセローで答え合わせをしたんですけど。


オセロー
『ああ、血だ、血だ、血だ!』


と言っていたので、あの月の赤は血の色を表してだったのかなあ。紅い月って昔からきっと曰く付きとされていただろうし他にも意味がありそう。





みっつめ。ラストシーン。


これが本当に驚きだった。わたしは原作を一通り読んでから観劇したから、もちろん結末も知ってた訳だけど、原作ラストのセリフからのあの演出に戸惑いが隠せなかったです。


原作通りならば、


ロドウィーゴー
『重い心でせねばなりません、辛い報告を。』


と、ロドウィーゴー(ブラバンショーの親族)がこれまでに起きた悲劇を国に帰って報告するというシーンで終わるはずなのですが。


今回のオセローはこのまま終わりを迎えるのではなく、突然部屋へ入ってきた謎の集団との乱闘によりイアーゴー以外の人が刺殺されてしまいます。そして、その後倒れていたイアーゴーが立ち上がりオセローに刺された足を引きずりながらエミーリアの隣に腰を下ろし、観客側を睨みつけるような視線を残して幕が閉じる。イアーゴーは死んだのか、あの集団は一体何だったのか真相は謎に包まれたまま。


ラストシーンの解釈については意見が分かれると思うんだけど、わたしは「イアーゴーは生き残った」派です。生きてる、でも生き残ってる、でもなくて、生き残った、んだと思うの。


これまでに起こった悲劇を知る者は全員あの場で殺されてしまった訳だよね。だからイアーゴーは「奇跡的に助かった人」として、見知らぬ人たちに襲われたことだけを話して(嘘ではないしこれも事実のひとつ)自分の仕掛けた罠である『ベットに折り重なった悲劇』のことは黙っていれば何事もなかったことにできる。頭の良いイアーゴーのことだから、あれこれ話を作って周りの人を言いくるめるなんてきっと容易いんでしょう。


これ、わたしはさっきのエミーリアの話とも繋がってるんじゃないのかなあ、とも思ってる。


エミーリア
『だって、悪いと言っても、この世の中で悪いだけでしょ。ひと働きして全世界を自分のものにしたら、自分の世界の中での罪となるんだから、さっさといいことにしてしまえばいいんです。』


イアーゴーの世界になったの、良くも悪くも。


だからもうその罪を咎める人はこの世界にはいない。自分の思い通りに動かせるようになるんだよ。


だけどそれは今のイアーゴーにとっては幸福となるのか不幸となるのか。


このシーンでわたしが1番感じたことは、


イアーゴーが愛していたエミーリア
憎んでいたオセローやキャシオー
助けを求めてくれたデズデモーナ
なんだかんだついてきてくれたロダリーゴー


そんなみんながいなくなってしまった世界はものすごく暗くて狭くて孤独。この世界の中でこれからずっと独りで生き続けるイアーゴーってとても苦しく哀しい人生を送らなきゃいけないのかもしれないってこと。


オセローがイアーゴーを刺した後のやり取りがその予兆を示してる言葉に当たるんじゃないのかな、と。


イアーゴー
『血は出たが、死んではいない。 』


オセロー
『残念とは思わん。そう簡単に死なせてたまるか。俺にしてみれば、死ぬことは幸せだからな。 』


そう、きっとあのままエミーリアの隣で死ぬことが出来たのなら、例え天国ではなくて地獄へ堕ちようとも、この世界で生きているよりは幸せなことだったのかもしれない。


イアーゴーをあそこまで突き動かした「愛」や「嫉妬」という感情のエネルギーを向ける相手はもうどこにもいない世界。味方がいないことはもちろん辛いけれど敵がいないということもまた、張り合いがなくて殺風景な世界なのかもしれない。


感情のなくなってしまったイアーゴーは、


これから先のことを考え世界を手に取るように地球儀を踊らせて生き生きとしていた1幕の彼、
自分の思い通りにあらゆる事が進み成功への道を進んでいる反面、そんな自分が撒いた毒に蝕まれ怪物と化していることに気づかなかった2幕の彼、
鏡に映った自分の姿に後戻りが出来ないところまで来てしまっている恐ろしさに震え、目の前にあるものを壊していくことしか出来なかった3幕の彼、


その中のどのイアーゴーとも別人だと思う。
今までわたしたちが目にしてきたイアーゴーはもうどこにもいなくて、あの場で消えてしまった。


だからわたしは「生き残った」んだと思うのです。命はあるよ、生きてる。でももうあのイアーゴーは生きてはいない、心は殺されてしまったのに哀しいことに身体は生き残ったの。心を亡くした彼はこの世界で生き続けなければならない試練を残された。試練を課したのは悪魔かはたまた神様か。


イアーゴーを刺す前にオセローはこう言ったよね。


オセロー
『おまえが悪魔なら、死なないはずだな。 』


知らぬ間に悪魔(緑の目をした怪物)になってしまった彼は死ぬことが出来なかった、望んでも。悲劇だなあ、と思います、とても苦しい。




ラストシーンに関してひとつ付け加えると、


襲ってきた人はイアーゴーが雇い、みんなを殺す策略だったからイアーゴーは殺されなかった


みたいな考え方をしている方も居るようで、全然思い付かなかった考えだったので興味深かったし、なるほどそういう見方もあるのか、、!と思ったけど、イアーゴーの姿を見ているとわたし的には腑に落ちない部分もあるんですよね。


まずドアから刺客が入ってきた時にはもうイアーゴーはオセローに刺された後で、脚から血が出て手は後ろで縛られて床に寝てる状態。イアーゴーは観客側に顔を向けて寝ていたから自分の背後で何が起きてるのかは見えていません。で、刺客がみんなのことを襲い始めるんだけど、その時に顔を歪めて目だけを動かしながら、驚きと戸惑いが混じったような表情をしていたように見えたの、それが引っ掛かる。


襲いに来ることが分かってたのならばあんな表情はしないはずでしょう?だってイアーゴーの顔が見えているのはわたしたち観客側だけだったから。わざわざ驚く演技をする必要なんてないよね。誰もイアーゴーの顔は見えてないよ、鏡の間だけど背中に顔はないもの、隠すものはもうあなたには何もない。


自分も殺されるかもしれないっていう恐怖なのか、状況が理解出来なくてあの表情なのか、やっぱり分かってた上での演技なのか。


気を失ってたのか、殺されないために死んだふりをしていたのかまでは分からないけど、起き上がった時にみんなが亡くなってしまっていることに対して戸惑いを隠せてない姿を見ると、やっぱり雇った訳ではなくてあの全員いた瞬間にたまたま襲われた、そしてイアーゴーは血が出て寝そべってたから死んでいると思われて奇跡的に刺されずに助かったっていうタイミングの話なのかな〜〜〜って、雇った説?については考えました。(襲ってきた相手がトルコ軍なのかキプロスの人なのか不明なのでそれによってもまた解釈は変わると思うけれど。)





イアーゴーとの関係性あれこれ。

(本当は主要のみんな分書きたいことはあるのだけど、どうしても放送日に合わせたいから追記でいつか書きます。← オセローは大階段のところでちょこっと触れているけれど、デズデモーナとの鏡の間とか、キャシオーとのお酒のこととか、ロダリーゴーには強気なイアーゴーとか、いっぱいある。)



イアーゴーとエミーリア


まずはひと言。
わたしはこの2人がとても好きです!!!!!(大声) (文章量がエグいことになってるけど好きすぎるが故にこうなってるから、比較はしないでね←)


夫婦という観点で言うとやっぱりオセローとデズデモーナに目が行くと思うんです。だって主役だもの。この2人がちゃんと話をして誤解が生まれずに上手くいっていたら、そもそもオセローって作品自体成り立ってないからね。


でも、でも、わたしはイアーゴーとエミーリアの関係性に注目すればするほど作品の面白さが詰まってるんじゃないかなあ、と。 (かみやまくんのヲタクだからイアーゴー贔屓で観るし考えるよねそりゃあこうもなるよね)


原作の感じだとイアーゴーってエミーリアに冷たいし、同じ唯一の女性として登場するデズデモーナに比べると、エミーリアも旦那さまに対しての愛情というか忠誠心、みたいなものがあまり感じられないような気がしていたのだけど。


神山智洋くん演じるイアーゴーと、前田亜季さん演じるエミーリアの間には確かに愛があった、と観劇してみてとても感じました。


(後日談として、2018.12.16のもぎ関にてリスナーさんからのお便りに(`-´) 「イアーゴーは悪人って言われてるけど、その演出の尊晶さんはそのちゃんと人間っぽいとこ出してほしい、エミーリアのこともちゃんと好きで。」とかみやまくんがお話していて、イアーゴーとエミーリアのヲタクであるわたしは涙が止まりませんでした。エミーリアのこともちゃんと好きで、、はあ、、尊い、、)




好きポイント①
なんだかんだ仲良しな2人


イアーゴーとエミーリアの印象的なシーンはやっぱりラストとキスシーンだと思うのだけど。でもキプロス島に到着したときの2人の会話も好きだし、オセローとデズデモーナの会話を聞きながらアイコンタクトを取ってる様子は微笑ましいし、鏡の間でデズデモーナに嘆かれたイアーゴーとそんなイアーゴーにそっと手を添えるエミーリアも好きだし、、ってキリがないんですが。


盗んできたハンカチを手渡すキスシーンは感情の起伏が激しい。イアーゴーに上げて落とされる。あれこれ言いながらも寄り添って仲良く会話してたかと思ったら、顎クイからのキス(リップ音がまたしんどい)で、えっなにこれいきなり少女漫画なの?!?!って空気が演舞場に漂いましたよね、わかる。わたしも何が起きたのか戸惑った。それなのに直後のセリフがこれですよ?キスシーンの後だよ??


イアーゴー
『行け、帰れ』


イアーゴーやばくないですか??!?!なんなのこの人奥さんの前ではこういうキャラなのしんどくない???初見の時、息飲んだ。心の声が漏れなかった自分を褒めたいです、耐えて偉かったよわたし。←


ってこちらがあわあわしてる中、行け、って冷たくあしらわれた当の本人エミーリアはなんだかルンルンで階段を登っていくんです。エミーリアちゃんとってもかわいくないですか??うんそうなの、かわいいの。だって旦那さまがハンカチ盗ってきたご褒美にキスしてくれたんだもんね、そりゃあうれしいよね〜〜〜!


階段でイアーゴーが取って来いって言ったのよ〜ってひとりお話してるのも、イアーゴーが来てハンカチひらひらさせながらお礼に何くれるの?って言ってるのもエミーリアがかわいくてたまらないシーンです。




ちなみに、このシーンのあとにとても好きなセリフがひとつ。


イアーゴー
『世界じゅうの睡眠薬をかき集めても、昨日までおまえにあったあの甘い眠りは二度と味わえぬ。』


エミーリアから貰ったハンカチをぐしゃ、っと握り締めながら言うこのセリフ。つい昨日まで幸せでいっぱいだったはずのオセローとデズデモーナが、イアーゴーの手で狂わされた歯車によって悲劇へと導かれていく麻薬のよう。甘さは時に毒となる。




好きポイント②
結婚指輪の謎


これはあんまり本編には関係ないんですけど、どうしても気になって仕方がないので書いておきます。結婚指輪ってどこにするか皆さんご存知ですよね、ええそうです、左手薬指。オセローとデズデモーナとエミーリアの左手薬指にはキラリ、と愛の証である指輪が光っています。


あれ、エミーリアの旦那さまって誰だっけ。そう、イアーゴーだよね。お気づきですか、イアーゴーは結婚指輪を付けてないの、エミーリアはしてるのに!!


軍人は装飾品付けちゃいけないのかなあ、とも思ったけどオセローは指輪してるし、イアーゴーもピアスはつけてるからそういう訳でもなさそうで。謎は深まるばかりです。


(でもエミーリアの指輪はイアーゴーが贈ったものだもんね、うん。もしもどなたかイアーゴーの結婚指輪を見かけた方がいらっしゃいましたら、こちらまでご一報お待ちしております。←)




好きポイント③
愛の形が示す先


愛する妻を自らの手で死へ追いやったイアーゴーと、最後まで無実を信じていた愛する夫に刺し殺されたエミーリア。お互いのことを想い向けられたものは愛という形をした剣だった。ものすごく切ない。抱きとめるように刃を向け走り去るあのシーンはどちらの気持ちを考えても胸が張り裂けそうになるし苦しくてたまらない。


エミーリアがイアーゴーのした悪事を話し始めた時に、イアーゴーはエミーリアに向かって「家に帰ってろ」って言うの。もしもあそこで指示に従って帰っていたら、イアーゴーは彼女のことを殺さなかったかもしれない。でも、エミーリアは男の人に屈しない強い女性だった。詳しいことは分からないけどこの時代にしたらものすごく勇気のいることだったはずで。エミーリアの発する言葉の節々には、男性と女性の地位の差やそれに対する気持ちが溢れ出ていたように思えます。


エミーリアの強さに惹かれるシーンやセリフがたくさんありました。デズデモーナのように純粋なだけでは、信じるだけでは生きていけない、でも愛ゆえにそうなってしまう葛藤みたいなものがとても美しかったから。すごく、すごくイアーゴーのことが好きだったんだ、と思いたい。


デズデモーナとの「全世界が手に入るなら夫を裏切るか」って話も、「夫のためを想うなら絶対にしない」っていうデズデモーナと「世界が夫のものになるならするかも、だけど裏切るのは夫に原因があるからだ」っていう考え方の違いが女性としてのエミーリアの素が見える瞬間でとても好きなシーンです。


寂しかったんじゃないのかなあ、エミーリアは。


副官になんかならなくたってイアーゴーのことを愛していたのに、彼の頭にあるのは出世することばっかりで。もしイアーゴーがなりたかった副官に任命されたら、少しは自分のことも見てくれるかもしれないって思ったエミーリアは魔が差して夫の地位と引き換えにオセローと不倫しちゃったのかもしれないなあ、って考えがふと浮かびました。


でもその一方で、オセローのことをイアーゴーが恨む原因の一つにエミーリアとの不義の疑いがあるんだから、めちゃめちゃ不器用な夫婦だと思いません??互いを想い過ぎて捻れてるんだもん、、。


(全てわたしの妄想です。エミーリアとイアーゴーの出会いとか幸せな新婚期のスピンオフください。元はと言えばその不倫が本当なのか定かでないことも話を引っ掻き回した原因だと思うんですけどね、詳細全然書いてないし真相はシェイクスピアにしか分からない。教えてほしい。←)


この時代の女性って多分、男性に従うことが全てだったのではないかなあ、と思うんです。特に自分の旦那さまは1番の忠誠を誓う相手。デズデモーナが実の父であるブラバンショーではなく夫のオセローに従ったようにね。


あれだけの悪事を思いつく彼のことだから、エミーリアが誰かに話してしまえばこの計画が全て崩れ落ちることくらい分かってたはずなんです。でもエミーリアに口止めはしなかった。


どうしてだろうって考えて辿り着いた答えは、やっぱりこの2人は夫婦なんだってところ。イアーゴーにとってエミーリアは「将軍の妻デズデモーナの侍女」である前に「自分のお嫁さん」なんです。エミーリアが最も従うべきは使えている「奥さま」やその「旦那さま」ではなく、自分の「夫」イアーゴー。イアーゴーの中でエミーリアは自分の妻、であることへの信頼があったから。


だからこそ、帰れと言ったのに言うことを聞かなかったエミーリアを刺してしまったんじゃないのかなあ、、言いつけに背いたんだもの。おまけにもう家に帰らないかもって人前で離婚宣言までされちゃった。


(絶対イアーゴーのプライドズタズタですよ、、エミーリアちゃん偉いよね、あの旦那さま絶対めんどくさいもん←)


自分の妻でさえも従わせることができないとなると、軍人の世界ではレッテルを貼られるに決まってる。そんなことイアーゴーの中ではあってはならない。新訳オセローのあとがきにもある男性性のお話もきっとこの辺りに関係しているのでは、と。


イアーゴーの思い描いていた世界の中には「死」というものはなかったと思うんです。当初の予定では誰も殺すつもりはなかった。


将軍になりたい、とは彼は言っていない。いずれは、っていう野心はもちろんあっただろうけど、現時点でなりたかったのは副官。将軍としてのオセローに対しては忠誠心も尊敬の意もあったとは思うんです。副官って将軍の補佐・右腕のようなもので、その地位を目指してた且つ、

イアーゴー
『軍隊を率いるとなれば、あれほどの実力者はほかにいない』

っていう冒頭のロダリーゴーとの会話からも分かるように認めてる部分はあったと思う。その尊敬してたオセローが選んだのは献身的に支えてきた自分ではなくて戦場で約立たずのキャシオー。だから当初の目的としてはキャシオーを失脚させて自分を副官に任命させる、オセローには自分も感じた嫉妬心を感じさせようと嘘を吹き込む。それだけのはずだった。でも想像以上に毒は回ってしまったんです。


後戻りが出来ないところまで来てしまったの、知らないうちに。だからみんなの前でエミーリアのことを刺さなければならなかった。あの鏡の間からもうイアーゴーは自分で自分のことが分からなくなっていて、そんな彼が唯一嘘をつかずにいられた妻に裏切られたのだから。洗いざらい暴露されてしまったから、エミーリアを刺した理由は口封じではなくて、自分への罰だったのではないかと思います。自分を保つために、愛していたエミーリアを刺した、自分の手で、愛する妻を。


オセローとデズデモーナの関係も悲劇だと思うけれど、イアーゴーとエミーリアも同じくらい甘くて苦い夫婦だった。






1番愛を持っていて、その愛あるが故に嫉妬に苦しんだのは、実はイアーゴーだったのかもしれないね。


だってあなたは『正直者のイアーゴー』だから。巧みに操られた言葉の意図が示す先に何があるのか、分からなかったことも沢山ある。だけど正直に素直に自分の気持ちを相手に向けた結果がこうなんだとしたら、あなたはものすごく人間らしいよね。悪魔や怪物に蝕まれてしまったものの、起きたこと全てが彼のせいで悪いわけではないと、感じてしまうからわたしはあなたを憎めない。

本番では、しっかりとイアーゴーを務めて走り抜けて、観ていただいた皆さまに「こいつ、嫌い!」って思ってもらえるように。それだけでなく、人間味も出せて感情移入できるイアーゴーをもっと突き詰めていきたいと思っています。


緑の目をしたイアーゴー、最初から最後まであなたの心を読むことは出来なかった。表も裏も分からない。だけど、もしまたいつか出会える日が来るのならば、その時は今よりもう少しだけでいいからあなたの心に近づけますように。あの鏡を通さずとも、その心に触れられる日を待っています。






最後に。

神山智洋くん。


あなたがイアーゴーを演じてくれて、「オセロー」という作品に出会えて本当に良かったです。千穐楽のカーテンコールでの声や表情、話してくれたこと、その日の夜に書いたという、な・に・わ・ぶ・誌で語ってくれたこと、ずっとずっと忘れません。「素晴らしい経験、大切な財産になる舞台」と綴っていたけれど、わたしにとってもオセローを観に行けたことは財産だなあ、と思います。こんなにもひとつの作品やこの世界で生きている人へ想いを馳せたことはなかったから。


ブラットブラザーズでグレンさんにあなたは絶対にお芝居をやめないで、頑張っていればハムレットができるから」って言われた3年後に同じシェイクスピア劇であるオセローでイアーゴーを演じて。そのオセロー千秋楽で「読んどきな」って井上さんからハムレットを渡されたかみやまくん、ほんとにほんとにすごいと思います。




そう遠くない未来の話。
ハムレットを演じるかみやまくんが舞台に立ちスポットライトを浴びるその日を、心待ちにしています。